リスクベースアプローチ

取引のリスクレベルに応じて、適切な本人確認やモニタリングの強度を調整するアプローチ。画一的な対応ではなく、リスクに応じた柔軟な対応を行う規制哲学。

概要

すべての顧客・取引に同じレベルの対策を適用するのではなく、リスクが高い場合は厳格に、リスクが低い場合は簡素化することで、効率的かつ効果的なリスク管理を実現する考え方。

FATF(金融活動作業部会)が推奨し、犯収法をはじめ世界各国のAML/CFT規制に取り入れられている。

基本原則

1. リスク評価

顧客・取引・商品のリスクを評価する。

リスク要因
├─ 顧客属性(職業、国籍、PEPs該当性)
├─ 取引パターン(金額、頻度、送金先)
├─ 商品・サービス(現金取引、匿名性の高さ)
└─ チャネル(対面、非対面、オンライン)

2. リスクに応じた対応

リスクレベルに応じて対策の強度を変える。

高リスク → 厳格な本人確認(EDD: Enhanced Due Diligence)
中リスク → 標準的な本人確認(CDD: Customer Due Diligence)
低リスク → 簡素化された本人確認(SDD: Simplified Due Diligence)

eKYCにおけるリスクベースアプローチ

犯収法では、複数の本人確認方式が用意されており、事業者はリスクに応じて適切な方式を選択できる。

方式とリスクレベル

方式 セキュリティ リスクレベル 適用シーン
ワ方式 ★★★ 高リスク 証券口座、法人口座、不動産取引
ヘ方式 ★★☆ 中リスク 銀行口座、クレカ、暗号資産
ホ方式 ★☆☆ 低〜中リスク 携帯契約、賃貸、フリマアプリ

リスク判断の要素

高リスクとみなされる要因:

低リスクとみなされる要因:

金融機関の実装例

銀行口座開設

個人口座(給与振込・生活用)
  → ヘ方式(マイナカードNFC+自撮り)
  → 簡便、高UX

特定口座・NISA口座(投資用)
  → ワ方式(電子署名)
  → 厳格、低UX

法人口座
  → ワ方式+法人確認書類
  → 最も厳格

継続的顧客管理(CDD)

本人確認後も、取引パターンをモニタリングし、異常を検知。

通常の取引パターン
  → 自動承認

異常な取引パターン
  ├─ 大口送金
  ├─ 高頻度取引
  ├─ 高リスク国への送金
  └─ → 追加確認、取引停止、当局報告

FATF勧告とリスクベースアプローチ

FATF(Financial Action Task Force)

マネーロンダリング・テロ資金供与対策の国際基準を策定する政府間機関。

勧告10(顧客管理):

日本の対応

犯収法および施行規則において、リスクベースアプローチを明文化:

実装上の課題

事業者側の課題

ユーザー側の課題

今後の展望

AIによる動的リスク評価

従来の静的ルールベースから、AIによる動的評価へ。

機械学習モデル
├─ 取引履歴
├─ デバイス情報
├─ 行動パターン
└─ → リアルタイムリスクスコア

継続的認証(Continuous Authentication)

一度の本人確認で終わらず、継続的に認証レベルを調整。

ログイン時: ★☆☆(パスワード)
送金時: ★★☆(SMS認証追加)
大口送金時: ★★★(顔認証追加)

デジタルID統合

FIDO2WebAuthnJPKIの統合により、シームレスな認証を実現。

統合デジタルウォレット
├─ マイナンバーカード(ワ方式)
├─ パスキー(FIDO2)
└─ 生体認証([[顔認証]])
  ↓
リスクに応じて最適な認証を自動選択

海外の事例

エストニア

e-IDを基盤に、すべての行政・民間サービスで統一認証。リスクに応じて認証レベルを自動調整。

シンガポール

SingPassで3段階の認証レベル(L1/L2/L3)を定義。サービスごとに必要なレベルを指定。

EU

eIDAS規制で、3つの保証レベル(Low/Substantial/High)を規定。域内で相互認証。

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